創業店(吹上店)の歴史と世界観
鹿児島県民からは「そば茶屋」や「吹上庵」と呼ばれ親しまれている「そば茶屋 吹上庵」。「県外の友人が来たらまず案内したい」「旅先で偶然入ったらとても良かった」「鹿児島に帰ってきたらやっぱりそば茶屋に行きたくなる」、そんな声がネット上でも数多く寄せられる、県内外にファンを持つおそば屋さんです。

「そば茶屋」の始まりは1977年に開業した日置市の伊作峠にある「そば茶屋 吹上庵 吹上店」です。
緑に囲まれた場所に建つ、茅葺き屋根と水車が目印の趣ある店構え。店内へ足を踏み入れると、飴色に艶を帯びた梁が美しく、大きな囲炉裏や全国各地の民具が迎えてくれます。まるで“田舎のおばあちゃんの家”に遊びに来たような、ほっとする空間。


この茅葺き屋根と水車の佇まいを持つ4店舗と、そば粉を挽いてそば打ち体験ができる手打ちそば道場「山稜館(さんりょうかん)」を含め、現在は全15店舗を展開しています。
鹿児島らしさが息づく「そば茶屋」、今回訪れたのは天文館店

今回訪れたのは、「そば茶屋 吹上庵 天文館店」。天文館の天神おつきや・ぴらもーるにあり、県外や海外からの観光客はもちろん、ビジネスマン、ショッピング中の家族連れ、友人同士、お一人様まで、幅広く訪れるお店です。



店先には赤い和傘や畳の長いすが置かれ、アーケードの中でも思わず足を止めてしまうほど和の趣が漂います。店内は、コンパクトながら囲炉裏があり、どこかほっと落ち着く雰囲気はそのまま。
取材したこの日も、途切れることなくお客さんが訪れ、思い思いにそばを楽しむ姿が見られました。店頭では、お弁当や持ち帰り用のそばとつゆも販売されており、それを買い求める人々も多く、終始にぎわいに包まれていました。


■天文館で味わう、吹上庵の変わらない温かさ「薩摩かけそば」と「板そば」


「そば茶屋」のそばは、山芋を練り込んだそば。挽き立て・打ち立て・湯がき立てにこだわり、注文が入るたびに麺を湯がき、その日に使う分だけを打つことを、開業当初より守り続けています。さらに、“水”へのこだわりも。一部の店舗では、地元の地下天然水を使用し、持ち帰り用のかけそばのつゆにもこの水が使われています。

そばは細麺と太麺から選べるのが、「そば茶屋」の魅力。昔、おばあちゃんが作ってくれたような、少し太めで平たい“田舎そば”の面影を残す太麺は、太い分だけ香りが立ち、噛むほどに旨みがしっかりと広がります。

「薩摩かけそば」の太麺は、食べ進めるたびに麺がだしをほどよく含み、かけそばながらのおいしさを味わうことができます。さつまあげや天かす、とろろ昆布の旨みが重なるつゆを飲み、そばをすする…。夢中になりながら食べるかけそばは、旨みが口のなかを満たし、ほっとさせてくれます。気づけば両手でどんぶりを抱えて最後の一滴まで飲み干してしまう。「ああ、おいしかった」と心から満たされる一杯です。
細麺は“冷たいそば”と“温かいそば”で、そば粉と山芋の配合や太さを微妙に変えています。冷たいそばは香りが立ち、すすったときののど越しが爽やか。温かいそばはやわらかい食感が特徴です。

「板そば」は、しっかり締められてコシが強く、まずは何もつけずに食べると弾力と香りがふわりと鼻を抜け、そば本来の味わいが楽しめます。 そばつゆは、オリジナルの鹿児島の生醤油にザラメと味醂を合わせ、ひと月以上寝かせた“本返し”に、しいたけと鹿児島産かつお節でとっただしを合わせたもの。まろやかで角がなく、そばの香りをそっと引き立ててくれる味わい。

山芋入りのそばつゆにそばをくぐらせると、まず深みのあるやさしい甘さが広がり、そのあとを追うようにそばの香りがふわりと立ち上がります。
わさびやねぎ、のりなどの薬味を添え、思いきり音を立ててすする板そばは、食べ進めるほどにそばのおいしさを存分に楽しませてくれます。
■冬に大人気の「みそ煮込みうどん」、ここに来たら必ず食べたい「玉子焼き」

寒い日にも体をほぐしてくれる、人気の鍋メニューには「峠なべ」や「味噌煮込みそば・うどん」があります。
「味噌煮込みうどん」は、赤味噌などを合わせたオリジナルの味噌を使い、鍋蓋を開けると、ぐつぐつと立ちのぼる湯気と食欲をそそる香り。ほんのり効いたショウガの風味が体の芯からぽかぽかと温めてくれます。

煮込むことで豚肉の甘みがつゆに溶け込み、味噌のまろやかさが一層深い味わいに。熱々の土鍋から取り皿に具材とつゆを移し、はふはふと食べるのも土鍋ならではの楽しみ。半熟卵の黄身のコク、みつばの爽やかな香り、おもちや豆腐の食感…。一つの鍋の中に、さまざまなおいしさが詰まっています。

「吹上庵」に来たらぜひ味わいたい、人気のサイドメニューが「玉子焼き」。
そばつゆに使う“本返し”をベースに味付けした一本で、ふんわりと巻かれた表面にはほどよい焼き目が。箸を入れると、中はしっとりジューシーで、しっかりとした食感のなかに濃いだしと鹿児島らしいやさしい甘さが広がります。シンプルだからこそ、噛むほどにお店のこだわりが感じられる逸品です。
■天文館店だからこそのデザート「桜島かざんソフト」

天文館店の隣には、2024年にオープンした「桜島火山もなか本舗」があり、その「桜島かざんソフト」を味わえるのは天文館店だけ。
濃厚なミルクソフトの下には、北海道産の上質な小豆を使った餡。さらに、桜島を模したパリッと香ばしい最中の皮と合わせると、食感の対比も楽しい一品です。
「桜島火山もなか本舗」の三種の火山もなかは、『2025 かごしまの新特産品コンクール』で鹿児島県観光連盟会長賞を受賞。鹿児島らしいお土産や贈り物としても喜ばれる品がそろっています。 天文館店で食事を楽しんだあとは、ぜひ隣のお店にも立ち寄ってみてください。
ちょっと小話。「そば茶屋」の創業や価格に込められた思い

“一杯のかけそばが私たちの原点です”。
この言葉を掲げたのは、「そば茶屋 吹上庵」を創業した故・堂下博司氏。その思いは今も変わらず受け継がれていると語るのは、取締役の郷原さんです。
「高齢化の影響などで、県内のそば生産量は少しずつ減ってきていますが、創業当時の鹿児島は、全国でも有数のそばの産地でした。ただ、収穫したそばの多くは関東方面へ出荷され、地元で食べられる機会がほとんどなかったんです。こんなに良いそばが採れるのに、県内にそば屋が少ない。だったら、地元の皆さんにもっと知って、味わってほしいという思いから、そば茶屋は生まれました」

そのなかでも創業者・堂下氏が特に守りつづけてきたのが“かけそば”の価格。
現在450円のかけそばは、長いあいだ「300円で提供する」という創業者の強い願いによって守られてきました。しかし時代とともに原材料が高騰し、ついに値上げを迫られたとき、社員全員が苦渋の決断を強いられたといいます。それは、“かけそばは300円で”という言葉の裏に、お客さんへの深い感謝が込められていることを、全員が理解していたから。
「そば茶屋は、鹿児島県民の皆さんに支えていただき、いまがあります。だからこそ、誰でも毎日食べられる価格を守りたい。あのときは本当に苦渋の決断でしたが、その思いは今も続いています」
時代とともに価格は変わりましたが、それでもメニューを見れば、どれも手に取りやすい価格。その背景には、創業者のまっすぐな思いが息づいていることを、改めて感じました。
店舗ごとの限定メニューも楽しんで

「そば茶屋」の一部の店舗では「合鴨そば」や「鴨鍋」、「7段そば」など人気メニューや限定メニューがあります。
温かいお茶は基本的に玄米茶ですが、知覧店では地元の知覧茶を提供するなど、地域性を感じられるのも魅力。また焼酎にもこだわりがあり、「そばに合う芋焼酎を作ってほしい」というお客さんの声から生まれたオリジナル焼酎「一本〆」をはじめ、志布志店では若潮酒造、人吉店では高橋酒造の白岳など、その土地ならでの焼酎が楽しめます。



鹿児島の土地と、人の思いがぎゅっと詰まった「そば茶屋」のそば。
一杯の中には、どこか懐かしくて、やさしい味わいが息づいています。
これからも、“鹿児島に帰ってきたらそば茶屋でそばを食べたい”と思っていただけるような存在でいたい。
そんな願いを胸に、「そば茶屋」では今日も変わらず、温かい一杯を届け続けています。
そば茶屋 吹上庵 天文館店
- 住所
- 鹿児島県鹿児島市東千石町11-6-1F
- 営業時間
-
【月~金曜】 11:00 〜 20:30(L.O20:00)
【土・日曜、祝日】10:30 〜 20:30(L.O20:00) - 定休日
- 無(年始を除く)
- 可能な支払い方法
- 現金・クレジットカード・電子マネー
- 駐車場
- 無
- ホームページ
- https://fukiagean.jp/