※館内は特別な許可を経て、撮影を行っています

鹿児島中央駅から車で約30分。鹿児島市下福元町の山手に広がる自然林の中に「児玉美術館」があります。ここは1985年4月に開館した、“樹々と語り、名画と語る緑の中の美術館”です。美術館へと続く遊歩道には、楓や竹林が広がり、梅や桜、筍、ツツジ、アジサイ、彼岸花、紅葉など、四季折々の景色が訪れる人を迎えてくれます。



館内に入ると、大きなアーチ型の窓から木々が望め、遠くで鳴く鳥や虫の声、雨音が静かに響きます。大展示室の中央からは、日の光が差し込み、作品を鑑賞しながら自然の気配が感じられる、自然と調和する空間です。


毎年、夏休み最初の土曜日に開催される「森林浴と子どもスケッチ大会」と「森の植物と虫の観察会」。スケッチ大会は2026年に第40回を迎えました。豊かな自然の中で子どもたちが思い思いに絵を描き、親子で自然やアートに親しめる催しとして、世代を超えて受け継がれてきた夏の恒例行事です。
鹿児島の美術や工芸と多彩な収蔵品
「児玉美術館」の創設者は、現在の館長・渡邊千津さんのお父さまである児玉利武(こだま・としたけ)氏。館内には、児玉氏が長年にわたって収集してきた絵画や陶磁器の一部が展示されています。



収蔵品の中心となるのは、鹿児島ゆかりの作家たちによる作品です。美術館の創設にも深く携わった大嵩禮造(おおたけ・れいぞう)をはじめ、その師・海老原喜之助や、独自の世界観で知られる山下三千夫などの作品を鑑賞できます。


また、鹿児島を代表する伝統工芸品・薩摩焼は、黒薩摩を中心に、県内在住の陶芸家による作品や現代陶芸を展示。なかでも、柳宗悦が提唱した「用の美」の思想に共鳴し、民藝運動を支えた陶芸家・河井寛次郎(かわい・かんじろう)の作品や、九州ではなかなか目にする機会が少ないという、前衛陶芸集団「走泥社(そうでいしゃ)」の中心作家・鈴木治の作品も、注目すべき貴重なコレクションです。
鹿児島の美術界を支えた画家・大嵩禮造の軌跡

画家・大嵩禮造は、鹿児島市立美術館館長や鹿児島大学名誉教授を務め、鹿児島の美術文化の発展と後進の育成に尽力した人物です。大嵩の画業は、「碑シリーズ」「グラスボックス・シリーズ」「ポートレートシリーズ」「回帰シリーズ」の4つに大別され、それぞれの時代ごとの表現の変遷を見ることができます。

「初期から晩年まで、一人の作家のすべてを収集してこそ、そのコレクションは完結する。そして、優れた作家の作品は、どの時代をとっても素晴らしい」という児玉氏の考えのもと、館内には各時代を代表する大嵩の作品が展示されています。

30〜40代に制作された「グラスボックス・シリーズ」は、幾何学的な抽象表現と鮮やかな色彩が特徴です。透明感のある白と奥行きを感じさせる青の階調が美しく、大嵩が追い求めた「白」の表現と、それを引き立てる「青」の魅力を感じられます。


また、館内には自宅アトリエの一部を移設・再現した「禮造のアトリエ」もあります。イーゼルやパレット、絵筆などの愛用品に加え、蔵書やパイプなどの私物も展示されており、まるで制作の合間に席を外したばかりのような臨場感のある空間です。
黒薩摩から現代陶芸まで、陶磁器の世界

鹿児島の伝統工芸・薩摩焼には、「白薩摩(白もん)」と「黒薩摩(黒もん)」があります。白薩摩は海外への輸出品として発展し、繊細で華やかな絵付けが特徴。黒薩摩は、日常使いの器として親しまれ、素朴で力強い風合いが魅力です。
児玉氏は、この黒薩摩を中心に収集しました。館内には、黒薩摩の名窯として知られる「長太郎焼」の初代・長太郎による作品も収蔵されています。

現在の館長・渡邊さんは、黒薩摩の魅力について次のように話します。「鹿児島で採れる鉄分の多い土を使い、長太郎焼ならではの素朴で味わい深い作品が受け継がれています。初代から四代までの作品を並べて見ると、それぞれ“黒”の表情がまったく違います。幼い頃には分からなかった黒薩摩の魅力は、一つとして同じものがないところなのかもしれないと、この年になって感じています」。
陶磁器展示室には、このほかにも鹿児島在住の陶芸家による現代陶芸作品を展示。伝統を受け継ぎながらも、作家それぞれの感性が光る自由な造形にも注目です。
自然とアートが響き合う企画展も開催

「児玉美術館」では、豊かな自然環境を生かした企画展やイベントも開催しています。
2026年9月5日(土)・6日(日)には、鹿児島・大分・東京で活動する作家が集うアートフェス「竹林とART」を開催。約40人の作家が参加し、それぞれの感性で制作した作品を展示します。自然公園内にはインスタレーション作品が並び、散策を楽しみながらアートに触れられるのも魅力です。また、カレーやパン、コーヒーなどのフード出店もあり、いつもとは違った美術館の雰囲気が満喫できます。
フェス終了後の9月8日(火)から30日(水)までは、参加作家による作品展を開催。気に入った作品は購入することもできます。 ※企画展開催中は、常設展示を縮小、または休止する場合があります。

四季折々の自然とともに、美術や工芸、企画展など、さまざまな芸術に出合える「児玉美術館」。木々のざわめきや鳥の声に耳を傾けながら作品を巡る時間は、街中の美術館では味わえない、この場所ならではの魅力です。自然とアートが調和する空間で、ゆっくりと心満たされるひとときを過ごしてみませんか。

※駐車場について
大きな木が目印の駐車場に車を停めたら、右手へ少し進みます。すると、「児玉美術館」と書かれた看板が見えてきます。そこから敷地へ入り、自然に囲まれた遊歩道を歩いていくと、美術館の建物が見えてきます。
児玉美術館
- 住所
- 鹿児島県鹿児島市下福元町8251−1
- 電話番号
- 099-262-0050
- 開館時間
- 10:00~16:00(最終入館は15:30まで)
- 休館日
- 月曜 ※ただし祝日の場合は開館し翌日休館
- 入館料
-
一般:800円
高校・大学生:600円
小・中学生:300円
65歳以上:500円 - 駐車場
- 大型バス他40台(無料)
- @kodama_art_museum