文章を書くことが得意でない編集者の読書とは

文章を書くことが得意でない編集者の読書とは
安田 綾

この仕事をしていながら、こんなことを書くのはちょっと気が引けるのですが…。
実は、文章を書くのが得意だと思ったことがありません。

“書くこと”について誰かと話していると、つい「文章がうまくなるには何をしたらいいと思いますか?」と聞いてしまいます。そして返ってくる答えのなかで多いのが「本を読むこと」。そのたびに、「私も本を読んでいるんだけどなあ」と思ってしまうのが、いつもの流れです。
でもそれって、せっかく真剣に答えてくれた相手に、なんだか失礼な気もしてきて…。そこでふと、「そもそも私にとって“読む”って何だろう?」と考えてみることにしました。

私がよく読むのは、小説、エッセイ、そして雑誌です。 最近は、あっさり読めて、あとに引かないエッセイばかり読んでいる気がします。
たとえば、内館牧子さんの「言わなかった言わなかった」、三浦しをんさんの「好きになってしまいました。」、向坂くじらさんの「夫婦間における愛の適温」など。
どれも、書き手の人柄や考え方が垣間見えて、共感したり、笑ったり、ときには違う視点に気づかされたり。短編でさらりと読めるところも、せわしない今の私にはちょうどよくて、気づけばエッセイにばかり手が伸びています。

小説は、短編よりも長編派。
登場人物の心理描写や境遇に、どっぷり感情がシンクロしてしまうくらい没頭することを期待して、ページを開きます。
でもその分、けっこうエネルギーが必要なので、読むにはちょっと気合いがいる。 最近読んだのは、浅田次郎さんの「おもかげ」です。出だしから先がまったく読めず、どんどん引き込まれながら読み進めるうちに、人と人とがつながっていく流れにぐいぐい惹き込まれていきます。前半ではなんとも思わなかった主人公の魅力に気づいたころには、もう本を閉じられなくなっていました。
だから読むには、寝不足になってもいい日と、少しの心の余裕が必要です。

雑誌は、気になる特集のときだけ買います。
民藝、暮らし、本、旅など。好きなテーマにはつい反応して、「そうなんだ」「知らなかった」と、わくわくしながら読んでいます。

こうしてつらつらと書いているだけで、あらためて気づくのは、私は「文章のこと」よりも「本から何を感じるか」に夢中なんだな、ということ。
ただただ楽しんで、心が動いて、笑ったり泣いたりしている。
それはそれで、きっといい。
だけど私だって、編集者のはしくれ。

日常が描かれるエッセイは、なぜこんなにも私を楽しませてくれるのか。
小説の登場人物の考えや境遇は、どうしてこんなにも心をかき立てるのか。
たしかにそこには、読者である私の心にふれる文章がある。

そのことに気づいてからは、「この表現、いいなあ」「この言い回し、素敵だな」と思うところで、ほんの少し立ち止まるようになりました。
とはいえ、夢中で読みふけって、そんなことはすっかり忘れてしまっていることも、まだまだ多いのだけれども。

あちこち編集長

安田 綾

aya yasuda

2022年に鹿児島に移住してから、新鮮な目であちこち行っては鹿児島の素敵なところを見つけて楽しんでいます。いろいろな人に会って話を聞けることが嬉しいです。 好きなことは、写真を撮ること。

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