二ツ家造りの民家に新しい息吹を
霧島市国分清水に立つ二ツ家造りの古民家をネット情報で購入したのは、関東出身で米国在住のNさん。いつかは田舎の古民家を手に入れて、建築士と一緒に再生させたいと考え、実現しました。二ツ家造りは、床の間のある「オモテ」と炊事等の作業を行う「ナカエ」の二棟を連結させた住まいです。
庭師の仕事にも興味を持つNさんは、住居の再生と並行して作庭にも取り組み、敷地の南面と東面に植樹、かつての池は埋め戻して古材を活用し枯山水の境地をうかがわせる庭に。
代々受け継がれてきた民家を快適に
二拠点生活を念頭にNさんは、「民家再生協会かごしま」のメンバーで一級建築士の岩田幸千さんに改修設計を依頼。施工は、地元の堀之内建設が請け負いました。
「アメリカではタワーマンション暮らしなので、ここでの生活はのんびりゆったりしたものになると思います」とNさん。昔ながらの「田の字」で構成されたオモテは、客人を迎え入れる表の座〝ハレの空間〟と、日常生活の場である〝ケの空間〟を見事に融合させています。海外の暮らしが長いことから、床に畳は敷かず、杉板張りにしました。
改修設計した岩田さんによると、「快適性と安全性を確保するために、まずは斜めになっていた床レベルを整え、下がっていた鴨居(かもい)を上げるなど水平垂直の整備をしました。その上で耐震補強として瓦屋根を鋼板屋根に葺(ふ)き替えて屋根の荷重を軽くして、さらに地震時の揺れ対策としてバランスよく壁を補強しました」。
断熱性の向上については、「屋根の葺き替え時に2重屋根とし断熱材と空気層を設けました。そうすることで天井がなくても断熱性能は向上しました。また外壁の板張りを張り替える時に壁内に断熱材を充填(じゅうてん)。床は畳を撤去して床板に張り替える時にその下に断熱材を、土間部分は土間コンクリートの下に断熱材を敷き込みました。全体的には中程度の断熱性能ですが、年間を通して風通しが良くエアコンをさほど使わなくても暮らせる古民家の特性を生かせば十分といえます」。
エイジングを愉(たの)しもう
Nさんは、「まず、美しい欄間に引かれましたね」と、この住空間でエイジングを重ねたテーブルや小物までもいとおしく思え、使える柱・梁(はり)・壁材はもちろん再利用。ガラス戸や仏壇まで用途を変えて、心落ち着く陰翳礼讃(いんえいらいさん)の世界観を演出。
パーマカルチャーな納屋まわり
納屋も耐震補強し、大きなピクチャーウインドー越しに庭を眺められるようにしました。この窓際は昔の厠があった所で、堆肥を作れるように丸くくり抜いた石板が設置されていました。その石板は今、枯山水庭の中央にオブジェとして生かされています。
真鍮のスイッチやコンセント、モールテックスの水回りも
味わい深い素材や使い勝手のいい素材の用い方もN邸の家づくりの魅力です。 真鍮のスイッチ、モールテックスで造った水回りなどが、古民家にしっくりなじんでいます。年月を重ねた住空間と、調和の取れた家具や小物が醸し出すN邸は、まるで熟成ワインのようなふくよかさを感じさせるセカンドハウスでした。