鹿児島中央駅から車で約1時間。薩摩川内市東郷町の緑豊かなこの地で、栽培から販売まで一貫してお茶づくりを行う「笹野製茶」が、2019年にオープンしたのが「茶寮ささの」です。

車を降りると、茶工場からふんわりと茶葉の香りが漂い、黒壁をまとった建物からはあたたかな灯りがもれています。店内は天井が高く、開放的な空間。ひとりでゆったりとお茶を楽しむ人や、テラス席で緑を眺めながら談笑する友人同士の姿が見られました。

職人の技術を大切に、環境をいかしたお茶づくり

この地域は寒暖差が大きく、川内川に発生する川霧の影響もあり、昔から茶葉の栽培に適した土地とされてきました。その茶畑を受け継ぎ、現在この地でお茶づくりを担っているのが、二代目の代表・笹野英樹さんです。「お茶一杯の幸せのために」という想いのもと、茶の栽培を担う農業部門「茶をはぐくむ」、茶葉を仕上げる製茶部門「茶をととのえる」、そして直営店舗を通じてお茶を届ける「茶をつたえる」の三部門を軸に事業を展開。自然環境を敬い、長年この地でお茶をつくり続けてきた職人たちの技法を大切にしながら、お茶の魅力や楽しみ方を広く伝えることにも力を入れています。

「これまで私たち生産者は、お茶の製造に注力するあまり、淹れ方や楽しみ方を伝えることができていませんでした。誰よりもお茶のおいしさを知っている私たちが、もっとそれを伝えていきたいと思い、工場のそばに茶寮を開きました」と話すのは、店主であり代表の妻・千津子さんです。華道の教授でもある千津子さんは、紅茶コーディネーターと日本茶アドバイザーの資格を持ち、店を営みながら、お茶の淹れ方教室や和菓子とのコラボレーション企画なども行っています。

一煎目と二煎目で異なる風味が楽しめる「煎茶」

店では、煎茶、桑茶、紅茶、ほうじ茶、抹茶とそろっています。その中でも、一度は味わってほしいのが「煎茶」です。
煎茶は「さえみどり」一品種の茶葉。濃い緑と深いコクの味わいが魅力です。一煎目は60℃のお湯で淹れ、急須の中で茶葉がゆっくりと開いていくのを待ちながら、丁寧に抽出します。甘みと旨みが凝縮された、まろやかで優しい一杯に。
そして二煎目は、温度を少し上げた80℃で淹れることで、茶葉の香りとほどよい渋みが際立ち、すっきりとした後味の一杯に。温度と淹れ方の違いで変化する味わいを、じっくりと楽しめます。

◆お茶に寄り添う、3種のお菓子が嬉しい「お菓子セット」

この日、煎茶とともにいただいたのは、好みのお茶にその日替わりのお菓子が3種付く「お菓子セット」。 抹茶の豊かな風味にホワイトチョコのまろやかな甘さの、しっとり濃厚な「抹茶のテリーヌ」。羊羹のやさしい甘さのあとに紅茶が香る「和紅茶のようかん」。黒糖のコクが懐かしい鹿児島の郷土菓子「げたんは」でした。お茶の時間をより楽しませてくれるセットです。

その他の、魅力的な単品メニューを紹介

◆スプーンですくって楽しめる、ふわふわで濃厚な「抹茶ラテ」

点てた抹茶に、スチームミルクを注いで仕上げる「抹茶ラテ」は、抹茶の香りと風味が味わえる一杯。ほんのり甘いミルクは、スープですくって食べられるほど、きめ細かくしっかりしています。抹茶のほろ苦さと絶妙に調和し、まるで〝飲むスイーツ〟のような満足感です。

◆ 和紅茶や、選べる濃さの抹茶ジェラートも

「紅茶」は、べにふうきの新芽を使った、上品な香りの和紅茶。ほどよい渋みもあり、アイスでも味が損なわれず、すっきりと味わえます。
抹茶、緑茶、紅茶、桑茶、ほうじ茶と、豊富な茶の種類から選べるジェラートも人気。中でも抹茶は4％、6％、8％と濃さを選べ、味の違いを食べ比べるのもおすすめです。この日は4％をいただきましたが、それでもしっかりと抹茶の香りと旨みを感じられました。

店内の一角では、笹野製茶の茶葉やティーバッグ、茶器なども販売されています。自宅用にはもちろん、手土産や贈答用としても使いやすく、洗練されたパッケージデザインは世代を問わず喜ばれます。
「お茶でもどうぞ」とさりげなく差し出される、日本ならではの温かいもてなし。その一杯に込められた香りや味わいは、心をほっと和ませてくれます。自然豊かな薩摩川内市東郷町で、五感で楽しむお茶の時間を。ぜひ足を運んでみてください。