

伊﨑田和紙を知ったきっかけは、2026年5月にオープンした「HOTEL RACCAN」のレセプション。ふすまや照明、オブジェなどに使われた和紙のやさしい風合いが印象的でした。
そこで今回は、志布志市有明町の伊﨑田地域にある「伊﨑田和紙」の工房を訪ねてみました。

伊﨑田和紙の工房がある伊﨑田地域では、卒業を迎える児童・生徒たちが自ら和紙を漉き、世界に一つだけの卒業証書を作ります。手漉き和紙の原料となる梶の木は繊維が長く、とても丈夫。こうして作られた卒業証書は、子どもたちの手に渡り、何年、何十年経っても色あせることなく、卒業の日の記憶ともに大切な思い出をつないでいます。

この和紙は卒業生だけでなく、地域を離れる先生方の転任や転出の際にも贈られます。感謝の気持ちを伝える、世界でただ一枚の証書です。また、ある保育園では、園長先生が一枚一枚に筆で文字を書き入れ、卒園する子どもたちへ手渡ししています。
一枚の和紙が、人生の節目に寄り添う。和紙そのものの質感に、そこに込められた人々の思いから、より温かな風合いを感じます。


伊﨑田和紙の歴史は明治23年(1890年)に始まります。
時代の流れとともに一度途絶えましたが、昭和61年(1986年)、地域の人たちの「伝統を残したい」という思いによって復活しました。現在は、伊﨑田和紙保存会の國重さんが、その技術を守り伝えています。


和紙の原料となる梶の木を育てて採取し、蒸して皮をはぎ、たたき、数日かけてやわらかくする。こうした工程を何カ月もかけて繰り返し、ようやく紙の原料になります。そこには、想像以上に長い時間と手間がかかっています。
和紙づくりの工程や歴史について話を聞くなかで感じたのは、伝統の継承とは、ただ昔の姿を守り続けることではないということ。時代に合わせて役割や関わり方を変えながら、人々の暮らしに溶け込み、受け継がれてきたからこそ、伊﨑田和紙は今も地域の宝として大切にされています。


伝統の継承が難しいといわれる時代。
数年後、数十年後に卒業証書をあらためて手に取ったとき、そこには思い出だけでなく、地域の人たちが守り続けてきた歴史や物語も、一緒によみがえるのかもしれません。
一枚の和紙に込められた思いが、これからも世代を超えて受け継がれていくことを願いながら、工房を後にしました。